不明確な契約条項
別項(https://naoe-law.com/knowledge/契約書作成の目的/)で契約条項は明確であるべきであることを書きました。それだけだと抽象的に過ぎるので、少し例を示してみます。
【不明確な条項の例】
不動産の賃貸借契約には、「2か月賃料を遅滞したときは貸主が契約を解除できる」というような条項が設けられていることが多いです。一見すると何の問題もないように見えます。私も弁護士になったころは問題があるとは思っていませんでした。しかし、落ち着いて考えてみると問題があります。というのは、何通りにも解釈することができるのです。
まず、遅滞の意義について(a)1円でも支払額が足りなかったら賃料の遅滞になるのか、(b)1円も支払わなかった場合のみ遅滞となるのかが不明です。また、遅滞の期間について(c)連続して2か月遅滞した場合のみ解除権が発生するのか、(d)契約期間中に不連続で2回遅滞した場合でも解除権が発生するのかという問題があります。また、(e)前記(d)の場合で遅滞したあと足りなかった分を支払ったときに遅滞が解消されるのか、(f)足りなかった分を支払っても遅滞は解消されないのかといった問題があります。また、(g)遅滞した額の合計が賃料2か月分に達した場合に解除権が発生するという場合もあるでしょう。
いずれによるかはもちろん当事者間で合意したところによるのですが、合意の内容は明確にしておくことが大事です。不動産賃貸借契約書のようにひな形を用いるときは、覚書のような形で補足しておくことが望ましいといえます。
【不明確な表現の例】
「原則として」とか「等」といった表現もよく見かけます。「原則として」は普通は規定したとおりであるものの例外的に違う場合もある場合に、「等」は規定したもの以外のものもないとはいえないもののすべてを列挙するのは難しい場合に、それぞれ使われます。ありとあらゆることを契約書に規定することは非現実的なので、このような表現も仕方がないところではあります。しかし、「原則として」であれば何が例外に当たるかは当然には分かりません。業界の実務上明らかな場合もあると思いますが、そうでない場合は原則に当たるか例外に当たるかで争いが生ずる可能性を否定できません。「等」も何が「等」に含まれるかが当然に分かるものではありません。いずれも例示をして、それに準ずるものであることが合理的に判断できるようにするべきでしょう。
なお、担当者間では、契約交渉の過程で共通の理解が得られていることもあります。このような場合、担当者に変更が生じなければ「原則」「等」の内容につき争いが生ずることはないでしょう。しかし、会社間の取引であれば、いずれ担当者は交代します。そのときに「原則」「等」の内容についても引き継ぎがなされればいいのですが、そのような点について引き継ぎがなされることは稀でしょう。その意味で、担当者間で理解の一致を得ているだけでは不十分と言わざるを得ません。
条項や表現が不明確な契約書は、実を言うと弁護士が作成した契約書でも見かけることがあります。【不明確な条項の例】で挙げたように経験が足りないと見逃してしまうこともありますし、いまでも契約書を起案して少し立ってから見直すと表現が曖昧であったことに気がつくことがあります。得てして契約書ができたときは完璧なものができたと思いがちです。落ち着いて見直したり、第三者に見てもらうことが、不明確な規定の排除に有効です。もちろん弁護士を使わなくても見直すことはできますが、契約書のレビューになれている弁護士を使う方が、より問題点を発見しやすくなるでしょう。